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知って得する法律情報

不動産の「押し買い」被害の実態

2025年9月1日

 「押し売り」ならぬ「押し買い」の被害が多発していることをご存知でしょうか。

 押し買い被害は、自宅を訪問した業者に貴金属を無理やり買い取られてしまったというような事例で近年知られるようになりました。そして最近は、皆さんが暮らす自宅不動産の押し買いの被害が特に都市部で多発していることが明らかになってきています。

 ある日突然自宅にやって来た不動産業者を名乗る者から、自宅不動産を手放したいと思っていないのに売却を迫られ、本来の価値より安価で自宅不動産を売ってしまう、これが不動産の押し買いの被害です。自宅を売ることは、すなわち自宅を失うことです。自宅を売却しつつ、そのまま住み続けられるリースバック契約を結ぶ例もありますが、それで安心というわけではありません。賃貸期間に期限がある定期借家契約を結ばされて家を追い出されたり、家賃を払い続けるための資金が枯渇し、結局は自宅と現預金資産も失ってしまう、そんな被害が実際に起きているのです。

 不動産の押し買いは、その性質上、不動産を所有していることが多い高齢者が被害者になっています。大変残念なことですが、高齢になればなるほど賃貸住宅を借りにくいのが実態です。不動産の押し買い被害は、単に資産を失うにとどまらず、住む家を確保できないという生存の危機にも直結する問題だといえます。

 被害回復は容易ではありません。いわゆる訪問販売は、クーリングオフによって解約することができますが、不動産の押し買い被害はクーリングオフの対象になっていません。法律が社会の変化に追いついていないのです。売買時に相手を騙したことが明らかでないと警察の介入も望めません。法律に防衛手段を設けることが急務ですが、不動産の押し買い被害が多発していることを家族やご近所と共有し、法改正の世論を盛り上げていくことも必要です。

弁護士 中島万里(名古屋北法律事務所)
(「年金者きた」へ寄稿した原稿を転機しています)

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