裁量労働制の拡大に注視
2026年8月18日
高市首相が日本成長戦略会議において、裁量労働制の拡大に向けた指示をしたことがニュースになりました。
裁量労働制とは、業務の進め方や時間配分を労働者の裁量に委ね、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ定めた時間働いたものとみなして賃金を支払う制度です。現在は、研究職や企画職など、成果重視の働き方に適するとされる一方、いくつかの深刻な問題点が指摘されています。
第一に、長時間労働の温床になりやすい点です。労働者は業務の進め方に裁量があっても、業務量に関する裁量がないのが通常です。裁量労働制では、労働者が実際に長時間労働をしていても、使用者は追加の残業代を支払わなくても良くなります。そのため、労働時間を抑制する動機が弱まり、過重労働が見えにくくなる危険があります。
第二に、対象業務の範囲が曖昧になりやすい点です。本来、裁量労働制は業務遂行の方法や時間配分を本人が決められる職種に限られるべきです。しかし現実には、上司の指示が細かく、実態として通常の労働者と変わらないにもかかわらず、制度だけ適用されるケースが問題となっています。これは制度の趣旨に反します。
第三に、健康被害への懸念です。労働時間管理が不十分になると、過労死ラインを超える勤務が続いても把握されにくくなります。
第四に、労使間の情報格差・交渉力格差です。労働者が制度内容を十分理解しないまま同意したり、事実上断れない雰囲気の中で導入されたりすることがあります。
裁量労働制自体が直ちに悪い制度というわけではありませんが、あくまで使用者と労働者は対等な力を持つ関係ではないことに気を付ける必要があります。適用範囲の厳格化、実労働時間の把握、健康管理、本人同意の実質化が伴わなければ、「自由な働き方」ではなく「定額働かせ放題」になりかねません。安易に裁量労働制度が拡大しないように注視していく必要があります。
弁護士 白川秀之(名古屋北法律事務所)
「新婦人北支部・機関誌」へ寄稿した原稿を転機しています


