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知って得する法律情報

相続法改正のお話

2020年7月8日

相続法改正で、何がどうなった?

 

2018年7月6日、約40年ぶりに相続に関する民法等の改正法が成立しました。いくつか新しい制度が設けられているので、相続をめぐる各場面で、どのような制度の利用が考えられるか、順番にその概要を見ていきましょう。

 

1 相続にそなえて遺言を書くとき

(1)自筆証書遺言の作成方法の緩和

自筆証書遺言の場合には、偽造や改ざんを防ぐため、全ての文字を自筆で書かなければ有効な遺言として扱われません。

ただ、手書きで文章を書くのが苦手な人もいますし、財産の種類がたくさんある場合には文字数も増えますから、書き間違えた場合に訂正するのも面倒です。

こうした不便さを緩和するため、改正相続法により、遺言書本文はこれまでどおり手書きする必要はあるものの、これに添付する財産目録については、パソコンで書いたり、不動産の登記事項証明書や通帳のコピーを添付するという方式でも有効な遺言として取り扱うこととなりました。ただし、差し替えを防ぐために、添付する財産目録等の1枚1枚に署名押印する必要があります。

この遺言書作成方法に関する改正は、2019年1月13日から施行されており、同日以降に作成する遺言書に利用することができます。

 

(2)自筆証書遺言を保管する

自筆証書遺言を作成した後は、なくさないように保管する必要がありますが、これまでは公的に保管する制度がなく、紛失したり隠されたりするおそれがありました。

そこで、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が新しく作られ、自筆証書遺言を法務局で保管してもらう制度ができました。遺言を書いた本人が、封をしていない自筆証書遺言書の原本を法務局に持参し、原本を保管してもらう仕組みです。保管に際して、遺言書保管官が、遺言書の日付や署名の有無といった形式を審査するとされているので、日付が抜けている等の方式不備を防ぐことができます。ただし、遺言の有効性が証明されるわけではありません。

遺言者の存命中は、遺言者以外の人は、遺言書の閲覧等をすることはできません。だれかが亡くなった後、その相続人や遺言執行人等は、その人が遺言書を法務局に保管しているかどうかを法務局に問い合わせたり、閲覧請求や、遺言書情報証明書(遺言書の画像)の交付請求をすることができます。相続人等の誰かが閲覧請求をした場合には、他の相続人等に遺言書の存在が通知されます。

この遺言書保管制度を利用した場合には、家庭裁判所での検認手続は不要です。

この新しい法律は、2020年7月10日から施行されます。

 

2 遺産分割をする前

(1)相続人単独でできる預金の払戻し制度

被相続人が亡くなると、相続人としては、葬儀代、亡くなるまでの病院代、被相続人の残した債務等を支払う必要が生じます。ところが、2016年最高裁判決により、相続人が複数いる場合には、被相続人名義の預金は共同相続人の共有になるとされたため、たとえ一部であっても、相続預金の払戻しを受けるには相続人全員で手続を行わなければなりません。

しかし、それでは緊急の支払が必要な場合に対応ができないため、改正法では、2つの対策が取られました。

一つ目は、預貯金の一定割合については、家庭裁判所の判断を待たずに、相続人単独でも払戻しを受けられる制度の創設です。

単独で払戻請求できる上限額は、払戻請求をする被相続人の口座の相続開始時点(亡くなった日)の金額×払戻請求をする相続人の法定相続分×3分の1です。たとえば、Aさんが死亡して、子どものBさんとCさんが相続人の場合は、BCそれぞれの法定相続分は2分の1です。AさんがX銀行Y支店の定期預金に600万円、普通預金に300万円があったとすると、Bさんが1人で払戻請求できるのは、定期預金について100万円(600万円×1/2×1/3)、普通預金について50万円(300万円×1/2×1/3)となります。

また、上限額は金融機関ごとに150万円とされています。そのため、上記に加えてX銀行の他の支店に預金口座があったとしても、X銀行からの払戻可能金額は増えません。

二つ目は、家庭裁判所に仮分割の仮処分を申し立てる手続の要件の緩和です。もともと家事事件手続法200条に規定されている制度ですが、利用できる要件が緩和されました。

どちらも、2019年7月1日から施行されています。同日以前に開始した相続についても、同日以後に預貯金の払戻し請求や仮払いの申請を行う場合には適用されます。

 

(2)遺産分割前に処分された財産と遺産の範囲

被相続人が亡くなった後、遺産分割が終了するまでの間は、不動産や預貯金は相続人の共有財産とされるため、誰か一人の相続人が売却したり払戻しを受けたりすることはできません。

しかし、不動産については、遺産分割を経なくても、法定相続分で相続登記をすること自体は、各相続人が単独でできます。そのため、Aさんが死亡して、相続人が子どものBさんとCさんという場合に、Aさんの所有していた自宅不動産についてBとCがそれぞれ2分の1ずつの持分を相続するという内容の登記は、Bさんが単独で行えます。その場合に、Bさんがこの2分の1の持分を、全く他人のDさんに売ることもできてしまいます。ところが、裁判所の実務では、遺産分割の対象となるのは、相続開始時に存在した遺産ではなく、遺産分割時に存在する遺産だとされています。そのため、CさんはBさんとの間で、残された自宅不動産の2分の1の共有持分を遺産分割しなければなりません。Bさんが勝手に売った持分の代金については、別途、不当利得返還請求訴訟を起こす必要があります。

また、預貯金についても、Bさんが、Aさんの死亡後ただちにAさんの口座からキャッシュカードでお金を引き出してしまった場合でも、遺産分割の対象として扱われる「遺産」は、あくまでも遺産分割時点で口座に残っている金額です。

これでは、処分した相続人以外の相続人にとって不公平になり得ます。そこで、改正相続法は、相続開始後に、遺産にあたる財産が相続人によって処分された場合、共同相続人全員(処分した人を除く)の同意により、その処分された財産が遺産分割時点に存在していると「みなす」制度をつくりました。これにより、相続開始時に存在していた不動産の共有持分や預貯金額を前提として遺産分割を行うことができるようになりました。

もっとも、被相続人の亡くなる前に預貯金が引き出された場合や、相続人以外の人が引き出した場合には、この制度の対象とはならず、従来どおり、不当利得返還請求訴訟によって対応することとなります。

なお、改正相続法によって新設された、相続人が単独で行える払戻し制度に基づく払戻が行われた場合は、払い戻された預金も当然に遺産に含まれ、払戻しを受けた相続人がこれを取得するものとみなされます。

この制度は、2019年7月1日に施行されており、同日以降に開始した相続について利用することができます。

 

3 配偶者の保護強化

(1)配偶者居住権

被相続人が亡くなり、相続人は配偶者と子ども1人、遺産として自宅不動産(2000万円)と預貯金(3000万円)がある、という場面を想定してみます。配偶者が、長年住み続けてきた自宅にそのまま住み続けるには、遺産分割によって自ら自宅を取得するか、あるいは自宅を取得した他の相続人との間で契約をする(使用貸借、賃貸借)必要があります。

配偶者が自宅不動産を取得すれば、相続税の配偶者控除制度の適用を受けることができますが、その代わりに預貯金の取得額が減ります。つまり、上記の例では、配偶者が自宅(2000万円)を取得する場合には、これに加えて預貯金500万円を取得し、子どもが預貯金2500万円を取得することとなります。不動産を売却する予定がないとすると、配偶者としては、住む場所は確保できたものの老後の生活資金に不安が残る、という状態になり得ます。

改正相続法は、このような場面への対応として、配偶者居住権という制度を新設しました。これは、相続開始時に、被相続人名義の建物に配偶者(法律上の配偶者に限る)が無償で住んでいた場合に、配偶者は死ぬまで、あるいは一定期間、その建物を無償で使用収益することができる、という権利です。遺贈、または遺産分割による合意もしくは審判によって設定することができます。

これにより、たとえば配偶者居住権の評価額が1000万円と仮定した場合、上記の例では、配偶者が自宅の配偶者居住権(1000万円)と預貯金1500万円、子どもが、配偶者居住権という負担付での自宅不動産の所有権(2000万円-1000万円=1000万円)と預貯金1500万円を取得する、という分割の仕方が可能となります。

配偶者居住権は他の人に譲渡できませんが、老人ホームに入ることになった場合等に、所有者の同意を得て建物を賃貸することは可能です。配偶者居住権を登記すれば、居住している不動産が第三者に売却された場合にも、その第三者に対して配偶者居住権を主張することができます。

この制度は、2020年4月1日から施行され、同日以後に開始した相続について適用されます。遺贈による配偶者居住権の設定の場合、2020年4月1日以降に遺言を作成する必要があります。

 

(2)配偶者短期居住権

配偶者居住権が設定されていない場合でも、配偶者がある程度の期間自宅に住み続ける権利は保障すべき、という考えから、改正相続法では、配偶者短期居住権という権利も同時に作られました。

これは、相続開始時に、被相続人名義の建物に配偶者(法律上の配偶者に限る)が無償で住んでいた場合に、遺産分割でその建物の所有者が確定するまでの間(ただし最低6か月間)は、配偶者が無償で自宅を使用できる、という権利です。

配偶者以外の人に建物を取得させるという内容の遺言がある場合や、配偶者が相続放棄をした場合でも、配偶者短期居住権は発生します。それらの場合は、建物を取得した者から配偶者短期居住権の消滅の申し入れを受けた日から6か月を経過するまでの間、配偶者は無償で自宅を使用できます。

この権利は、他の人に譲渡することはできません。また、この権利は、あくまで短期間の居住権を保護するためのものなので、登記することはできません。

この制度は、2020年4月1日から施行され、同日以後に開始した相続について適用されます。

 

(3)持ち戻し免除の意思表示の推定

遺産分割をする場面では、被相続人から遺贈や生前贈与を受けた相続人がいる場合、遺産を前倒しで受け取ったものと評価し、公平の観点から、受け取った利益をいったん遺産に持ち戻して総額を計算したうえで、各相続人の具体的な相続分を計算するものとされています。

たとえば、相続人は配偶者と子ども1人、遺産として預貯金3000万円がある、というケースで、被相続人が亡くなる前に配偶者に対して自宅不動産(2000万円)を贈与していた、という場合を想定してみます。この場合、被相続人の死亡時の財産は預貯金だけですが、生前贈与された2000万円分を持ち戻して合算し、遺産としては5000万円あったものとして取り扱います。そのうえで、これを法定相続分(2分の1ずつ)で分割するのですが、すでに配偶者は2000万円分の不動産を受け取っているため、遺産分割時に受け取るのは残りの500万円ということになります。

被相続人が配偶者の老後の生活のためにと思って自宅を遺贈・生前贈与しても、それだけでは生活資金を余分に受け取れるとは限りません。上記のような「持ち戻し」をさせないためには、遺言等によって、「持ち戻しを免除する」という意思表示をしておく必要があります。

これに対し、改正相続法では、婚姻期間が20年以上の夫婦(法律上の夫婦に限る)間で、居住していた建物またはその敷地(配偶者居住権を含む)の遺贈または贈与が行われた場合に、持ち戻し免除の意思表示があったものと「推定」する規定が作られました。「推定」は、「反証のないかぎりそのように扱う」という意味なので、被相続人に持ち戻し免除の意思がなかったといえる事情がある場合には、原則どおり持ち戻しとなります。

また、居住用不動産以外の財産が遺贈または生前贈与された場合には、これまでどおり、持ち戻し免除の意思表示の推定はされません。

この制度は、2019年7月1日から施行されており、同日以後にされた遺贈または贈与について適用されます。同日以後に開始した相続であっても、遺贈や贈与が施行日よりも前になされている場合には適用されません。

 

4 遺留分

「遺留分」とは、被相続人の遺産のうち一定の割合について、一定の範囲の相続人に保障されている利益をいいます。遺贈や生前贈与によって、特定の相続人や、相続人でない第三者に対してのみ財産が遺された場合であっても、被相続人の兄弟姉妹以外の法定相続人は、遺留分を主張して、法定相続分の2分の1の財産を取得することができます。

従来の民法では、遺留分を主張する行為は「遺留分減殺(げんさい)請求」と規定され、遺留分を侵害した行為の効力を遺留分の範囲で失わせ、その財産の現物の返還を求めるという効果をもっていました。したがって、遺産のほとんどを占める自宅不動産が相続人のうち一人に遺贈された場合には、遺留分減殺請求をすることによって何分の1かの共有持分を取得する、という仕組みになっていました。

しかし、対立する当事者間で不動産や株式の共有になると、利用するのも売るのも支障が生じてしまいます。遺留分減殺請求を受けた側から価額弁償の申し出をして、お金で清算することも可能でしたが、評価額をめぐって争いになり、共有状態が続いてしまう問題が指摘されてきました。

そこで、改正相続法では、遺留分の主張をした者は、その侵害額に相当する金銭債権を取得することとし、必ずお金で清算することとされ、不動産や株式等の共有状態が起きないようになりました。名前も「遺留分侵害額請求権」と改められました。遺留分侵害額の支払請求を受けた側は、資金調達のため、裁判所に対し、支払について相当の期限を与えるよう求めることができます。

この制度は、2019年7月1日から施行されており、同日以後に開始した相続について適用されます。

 

5 相続人以外の親族の貢献を考慮する制度

遺産分割においては、特別の寄与(貢献)によって被相続人の財産を増加させたり、あるいは減少を抑えたりした相続人がいる場合に、その貢献によって増加・維持された財産額(寄与分)を遺産の総額から除いて遺産分割したうえで、その貢献をした相続人の相続分に寄与分を加えることによって、相続人による貢献を考慮する制度があります。

被相続人の事業に無償で従事してきたり、介護を行ったりしてきた相続人にとって、法定相続分どおりに遺産分割することがかえって不公平となる場合があるため、寄与分の制度が設けられています。

しかし、この寄与分はあくまでも「相続人」による貢献しか考慮しない制度です。そのため、「相続人の配偶者」「相続人の子」による貢献が行われている場合に、その貢献を直接に考慮して、遺産の増加・維持を遺産分割に公平に反映させる制度はありませんでした。

そこで、改正相続法は、相続人を除く被相続人の親族(6親等以内の血族、配偶者、3親等内の姻族)(法律上の親族に限る)が特別の寄与を行った場合には、相続人に対して特別寄与料の支払を請求できるという制度を設けました。相続人との間の協議が整わないときには、裁判所に対して、協議に代わる処分を請求することができます。

寄与分と特別寄与料のどちらも「特別の寄与」が要件とされており、通常の親族間の相互扶助・協力関係を超える貢献が必要とされています。

この制度は、2019年7月1日から施行されており、同日以後に開始した相続について適用されます。

 

6 その他

その他にも、改正相続法では、遺言執行者の権限の明確化や、遺産分割により法定相続分を超えて遺産を取得した場合には対抗要件なしに超過分について第三者に対抗できないこと等が定められました。

 

 

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