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知って得する法律情報

三菱電機派遣切り裁判 終結にあたっての弁護団声明

2014年1月23日

 名古屋北法律事務所は、2008年秋からのいわゆるリーマンショックを理由とする「派遣切り」問題について、名古屋市東区にある三菱電機名古屋製作所で派遣切りに遭った当事者の相談を受け、県下の多くの弁護士とともに弁護団を結成し、2009年3月の提訴以来、法廷でのたたかいに取り組んできました。

 原告らは最高裁にも上告してたたかってきましたが、2013年10月、最高裁は「上告棄却」「上告受理申し立ての不受理」の決定を下し、これによって法廷でのたたかいは終結しました。

 終結にあたって弁護団が発表した声明を以下に掲載します。これまで支援してくださった多くの方々に、心からの感謝を申し上げます。今後も、働く者を使い捨てにする労働法制のあり方を許さず、働く者が大切にされる社会をめざして奮闘していきます。

2014年1月
名古屋北法律事務所

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(以下、弁護団声明を掲載します)

三菱電機派遣切り訴訟終結に際しての声明

  1. 三菱電機派遣切り訴訟は、三菱電機名古屋製作所で働いていた派遣労働者が、派遣先企業である三菱電機との黙示の労働契約の成立及び三菱電機と各派遣会社との派遣切りに関する損害賠償請求を求めて2009年3月に提訴しましたが、2013年10月17日、最高裁判所が、原告らの上告棄却、上告不受理決定を行い、終結しました。
  2. 裁判を通じて、原告・弁護団は、三菱電機が長年にわたって行ってきた偽装請負・違法派遣の実態を訴えてきました。三菱電機は訴訟を通じて、一貫して、適正な請負であったと主張していましたが、判決は、「1審原告両名の訴外コラボレートにおける就業実態は労働者派遣にほかならず、当時の労働者派遣法が製造業への派遣を禁止していたことに照らすと(中略)いわゆる偽装請負であった」「訴外コラボレートにより1審被告三菱電機に対し、請負の形式により実態として労働者派遣されていたのは、当時、製造業に対する派遣を禁止していた労働者派遣法の定めに違反するし、また、その後、(中略)(各派遣会社に)それぞれ移籍採用された後も、1審被告三菱電機における作業内容に変化はなかったのであるから、(中略)労働者派遣法に定める派遣可能期間である1年のみならず、最長期間である3年をも上回る点で労働者派遣法を潜脱するものとしてこれに違反するものといえる」と判断し、三菱電機の違法な労働者の受け入れ実態を明確に認定しました。
    三菱電機は、まず、自らの違法行為についての真摯な反省と原告らへの謝罪をしなければなりません。
  3. 労働者派遣は、実際に労働者を指揮命令する企業が、派遣労働者との間で直接的な雇用関係を結ばず、使用者責任を免れる目的で利用が広がってきました。本件においても、2008年12月、三菱電機は一方的に労働者派遣契約を解除し、その結果として、原告らは解雇されるに至りました。裁判において、三菱電機は、派遣先事業主は、事業主間の商取引契約の一方当事者にすぎず、派遣労働者に対して責任を負うことは原則としてないと主張していました。しかし、判決は、派遣先企業と派遣労働者は直接の契約関係がないから不法行為責任を負うことがないという三菱電機の主張を排斥し、「派遣先企業の派遣会社との間の労働者派遣契約に対する措置(更新の有無や中途解約など)は、派遣労働者の雇用の維持又は安定に重大な影響を与えるので、派遣先企業にも、派遣労働者との関係で、その雇用の維持又は安定に対する合理的な期待をいたずらに損なうことがないよう一定の配慮をすべきことが信義則上要請されている(控訴審判決要約)」と判断しており、派遣先企業における身勝手な派遣切りが何でも許されるわけではないと判断しており、重要な成果でした。
  4. 他方で、原告らが求めていた三菱電機との間の黙示の労働契約の成立については、派遣労働者の人事労務管理等を、派遣先企業が事実上支配しているといえるような事情が必要であるなどと判示し認められませんでした。この点は、偽装請負の違法性を看過し、違法な派遣労働の実態に目を背けた不当判決といわざるを得ません。
    リーマンショックを契機とした派遣切りをきっかけに、全国で起こされた同種事件でも、司法は、派遣先企業の雇用責任について、派遣労働者に対して厳しい判断を繰り返しています。こうした労使関係の実態を軽視した司法の態度は批判されなければなりませんが、同時に、労働者派遣法が構造的に有している矛盾が明らかになったといわざるを得ません。現実に労働者を使用する派遣先企業が、直接的な使用者責任を負わない労働者派遣は、直接雇用の原則からの逸脱であり、使用者側からの要求により労働者派遣を拡大してきた政治にも極めて大きな責任があります。現在の自民党政権下においても、労働者派遣を全職種無制限に認めさせようとする改悪の動きがあります。しかしながら、裁判を通じて明らかになった労働者派遣法のもつ根本的な矛盾を解決するには、労働者派遣を規制する抜本的な改正こそ求められているのです。今後も、労働者派遣法の改悪に反対し、更なる派遣労働者の保護、労働者派遣法抜本改正を求める取り組みを続けていきます。

2013年12月20日
三菱電機派遣切り訴訟弁護団

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