文字サイズ 標準拡大

知って得する法律情報

離婚給付について(5)

2010年11月4日

 今回は、婚姻費用分担についてとりあげます。
これは、離婚給付というわけではありませんが、離婚事件に付随してよく問題となります。

 婚姻費用とは、民法760条が「婚姻から生ずる費用」と定める費用で、夫婦と子どもを含む家族が「その資産、収入その他一切の事情を考慮して」、それにふさわしい社会生活を送るのに必要な費用のことをいいます。通常は家族の衣食住の費用、医療費、子の教育費、娯楽費や交際費などが含まれます。こういった費用は、夫婦が共同して分担するものとされており(民法760条)、多くは収入
のない妻が夫に対して請求する形になります。

 たとえ婚姻関係が破綻して別居生活になっていたとしても、離婚が成立するまでは法律上の夫婦関係は継続しているわけで、夫婦各自の生活費や子の養育費の婚姻費用は、家族に対する「生活保持義務」として原則として夫婦で分担しなければなりません。ご相談の中で、よく「妻が勝手に出て行ったのにその生活費も負担しなければならないのか」といったご質問が出されますが、そういった場合(いわば同居義務違反状態)であっても、夫の方が妻より収入が多ければ、原則として夫が妻に対して支払うことになります。

 但し、子どもの養育費相当部分を別にすれば、相手方の有責性の程度、破綻状態によっては、配偶者に対する生活保持義務は軽減される場合があるという考え方も有力で、その程度は事案によるというほかありません。

 婚姻費用の額の算定に当たっての基本的な考え方は、夫婦双方の収入を合算したうえで、双方の家族構成(子を引き取っているか否か)に応じた指数で按分して、義務者(通常は収入の多い方)が権利者に対して支払う額を決めるというものですが、婚姻費用分担額の算定をより簡易化して迅速な算定を目指して、2003年に基礎収入と生活費指数を標準化した算定表が公表され、実務上はこれによる扱いが定着しています。

 相手が任意に婚姻費用を支払ってくれない場合には、離婚請求とは別に婚姻費用請求の調停(審判)申立をしますが、緊急を要する場合には、審判前の保全処分として、婚姻費用分担だけを先行して裁判所に判断してもらうこともできますので、そちらも検討してみてはどうかと思います。

 なお、いつの分の婚姻費用から請求できるかという点については、請求したときからあるいは調停(審判)を申し立てたときからと考えるのが一般的ですので、できるだけ早く請求・申立するのが得策だといえます。

2010/10/18
弁護士 伊藤勤也
(ホウネットメールマガジンより転載)

(連載の他の記事は下記のとおりです)
 ・離婚給付について(1) 概論
 ・離婚給付について(2) 財産分与
 ・離婚給付について(3) 慰謝料
 ・離婚給付について(4) 離婚時年金分割制度
 ・離婚給付について(6) 支払確保の方法等
—–

このページの先頭へ