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事務所だより

「大連立」騒動は何を示したかー解釈改憲、危険水域に 豆電球No.38

2007年11月7日

「大連立」騒動は何を示したかー解釈改憲は危険水域

福田総理と小沢民主党代表の党首会談で出された「大連立」構想と小沢辞任の一大騒動は、小沢一郎の党首留任で落着し、「大山鳴動ねずみ一匹」となった。
自民、公明政治に対決することを呼号して参議院選挙をたたかい、勝利した民主党が、自民党、公明党と連立政権を組むなどということは、有権者の信頼を 真っ向から裏切るものである。独断でこのような連立協議をやり、受け入れられないと見るや記者会見を開いて辞任を表明するという駄々っ子のような小沢も小 沢だが、記者会見で「未熟」等と言いたくれを言われても、すがるように慰留工作をして党首に戻した民主党幹部の感覚にも理解しがたいものがある。
小沢の動きの動機、背景については、諸説紛々であり、永田町すずめの格好のエサになった感がある。壊し屋小沢が本領を発揮しただけの単純な「殿ご乱心」 説もあれば、アフガンでの給油活動中断に危機感を持ったアメリカが小沢の弱点を握り、読売のナベツネ等のルートを通じて党首会談をセットしたという説、あ るいは、総選挙に向け民主党に活を入れるための芝居を打ったと言う「計算ずく説」もある。
そういう話に関心はなくはないが、ここで指摘したいのは、憲法9誌せょう開廷問題について、今回の大連立騒動が何を意味するか、という点である。
「大連立」が話し合われた党首会談では、自衛隊の海外派遣をいつでも可能にする「自衛隊海外派兵恒久化法」、あるいは国連の決議があれば自衛隊が海外で武力行使できるという憲法解釈の大転換について、話し合いが行われたようだ。
小沢は、記者会見で、「この一事を見ただけでも、『大連立』のための政策協議をする価値がある」と言ったが、小沢の本音であろう。
小沢の持論の骨子は、次の通り。
「国連決議に基づく軍事行動は「国際平和と安全」を目的とした集団的安全保障活動であり、集団的自衛権の行使とは異なり、「国権の発動としての」武力の行使または武力による威嚇に当たらない」
これは、小沢が1990年頃に出版しベストセラーになった「日本改造計画」以来、一貫して主張していることである。最近、小沢が月刊誌「世界」に発表し た論文でISAF(国際治安支援部隊)に陸上自衛隊を参加させる構想を公表したのも、この立場に基づく。党首会談では、この原則に沿った上で、自衛隊を、 特別法の制定を経ることなく、内閣の判断でいつでも海外派遣できる法律の制定を政策協議の議題とすることが話し合われた。
もし、大連立構想が破綻せず、自衛隊の海外派兵恒久化に向かって政治が動き出したとするなら、憲法9条はまさに瀕死の事態を迎えることになっただろう。それは、「究極の」解釈改憲であり、憲法9条の破壊を意味するといっても過言ではない。

憲法9条は、侵略戦争の反省に立ったわが国の不戦の誓いである。それは、安保理決議がなされた場合並びに自衛権行使のために必要な場合に限定的に軍事力 の行使を認める国連憲章の精神を、一歩進めたものである。イラクやアフガンでの武力行使は、中東でのテロを拡大、悪化させた。戦争は、破壊をもたらし、憎 悪を再生産するだけであり、決して紛争の解決にはつながらないことが、日々示されている。
日本は、仮に国連決議がある場合でも、戦争には加わらず、国際貢献は非軍事的活動によって行うという立場を、今こそ明確にすべきだ。「美しい国」というものを語るなら、憲法9条の精神を抜きにすることはできない。
今回の大連立構想は破綻したが、この意味するところは極めて深刻である。
3年後の憲法改正を掲げた阿部内閣が崩壊し、改憲は遠のいたと見るむきがある。確かに3年後の国民投票による憲法9条改正という安倍内閣の描いたスケジュール通りはいかないにせよ、依然として明文改憲を諦めた訳ではない。
さらに、解釈改憲について言えば、自民、民主の二大政党制のもとでは(両党の議席は国会の圧倒的多数を占める。自民は自主憲法制定が党是であり、民主党 は国連決議を条件として海外での武力行使を認めることを憲法提言の中でうたっている)、いつ、どのように、憲法9条の決定的な空洞化、破壊をもたらすよう な立法が行われるかわからない。憲法の明文改正なら国民投票によって否決すれば良いが、解釈改憲については、そうはいかない。
今、われわれは、憲法9条の解釈改憲については、非常に危険な水域を通過していること、自民・民主の保守二大政党制は、「板子一枚、下は地獄」であることを、今回の大連立騒動は教えてくれたのである。

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