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事務所だより

ロサンゼルスの労働運動とケント・ウォン弁護士 豆電球No.40

2007年11月21日

ロサンゼルスの労働運動とケント・ウォン弁護士

労働弁護団第52回総会2日目のスタディグループ「アメリカの改革派労働運動・移民労働運動のリーダー ケント・ウォン氏を迎えて」に参加した。
講演したケント・ウォン氏は、中国系3世の51歳の弁護士である。弁護士登録したのが1985年ということで、同じ年に米国で弁護士活動を始めたケント さんが、どんな仕事をしてきたのか興味があって参加した。ケントさんは、上背があり堂々とした体躯で、パワーポイントを使いながら、米国の移民労働者たち の現状、ロサンゼルスでの移民労働者やビル清掃、在宅介護労働者らの労働運動の前進等について、熱弁をふるった。

ケントさんの略歴を労働弁護団通信ナンバー266によって紹介する。ケントさんは、高校生の時に農業労働者の争議に触れ、劣悪な労働条件で酷使されてい るメキシコ人労働者のたたかいを間近に見た。これが、ケントさんと労働運動との出会いである。ケントさんは、カリフォルニア大学バークレー校で学生運動に 参加、卒業後、「社会変革のために設立された民衆法律学校」(それがどういうものなのかは良くわからなかった)に進んで弁護士資格を取り、85年に弁護士 登録、「全米サービス従業員組合(SEIU)」(組合員4万)のスタッフ弁護士になり、労働協約交渉や訴訟に関与。91年には、カリフォルニア大学ロサン ゼルス校労働研究教育センター(レイバーセンター)の所長職に就任し、今日に至る。レイバーセンターは、大学の研究教育機能と労働運動を結びつけ、運動が 必要とする調査研究、セミナー、シンポジウム、組合リーダーの養成、組合員教育等といった仕事を行うものらしい。ケントさんは、92年には「アジア太平洋 系アメリカ人労働組合」の結成にも参加、移民労働運動のリーダーとして活躍している。

以下、ケントさんの講演の骨子を紹介する(一部は配付資料から補った)
1 2006年5月1日のメーデーは、アメリカ史上最大の数百万人の労働者のデモが各都市で行われた。同時に大規模なストライキが行われた。これを担ったのは、移民のための権利を求める市民団体、ラテン系アメリカ人等、移民の労働組合である。
世界最初のメーデーは、シカゴで行われ、8時間労働制、賃金引き上げを求め行われたが、それを担ったのはアイルランド、ドイツ、イタリアなどの移民であった。
2 アメリカの労働運動の現状について
アメリカでも組合組織率と影響力が低下してきた(1956年32%→07年12%) しかし、移民労働運動の前進、サービス業等に従事する低賃金労働者の新しい組織化が進んでいる。
3 組合衰退の原因とその影響
グローバリゼーションと産業の空洞化、製造業からサービス業へのシフト。自動車、鉄鋼、ゴム、造船等から資本が逃避した。また、企業、政府による組合敵視政策が行われた。 他方で、多くの組合が新たな組織化に失敗した。
労働組合の衰退の結果、賃金、付加給付(保険等)の低下、経済格差の拡大、政治への影響力の低下などがもたらされた。
4 AFLーCIOの転換と移民権利運動
アメリカ労働運動は歴史的に移民の権利に反対してきた。
しかし、2000年、アメリカ最大のナショナルセンターであるAFLーCIOは、移民たちの労働現場での保護、雇用主制裁の廃止(非正規滞在移民労働者を雇用する雇用主に対する処罰の廃止)を求めるなど、歴史的な方向転換を行った。
しかし、その後、ブッシュの移民政策をめぐって、あるいは労働組合の戦術について対立と論争は続いている。
5 ロスアンゼルスの労働組合の新たな前進
ロスでも、6年に大規模なデモ、ストライキが行われた。
?ビル清掃労働者 低賃金労働者が多い。
ストライキにより、24%の賃金アップ、医療保険を獲得した。多くの女性労働者は、その日の食事か子供を病院に連れて行くかを選択しないでも良くなった。
?在宅介護労働者
99年に、9万9000人が組合を結成した。低賃金労働者が圧倒的に多い。有色人種、移民、女性という三条件が揃っている。
老母のために仕事を辞め、介護労働者になったジョイス・ハヤシという女性労働者、最初は数名のグループほ組織し、それが広がった。働く現場が一人一人違うため組織することは困難と見られていたが、運動と組織化に成功した。今、20万人の組合員を擁している。
?保険医療労働者
アメリカでは、4700万人が医療保険を持たない。医療、保険分野で働く労働者も同じである。「全ての人に正義を 統一した平等な保険を」をスローガンにたたかった。
ロスでは、組織率は当初は6%前後だったが、今では55%を組織している。

資本主義の総本山アメリカでの労働運動の前進は、重要な意義を持つ。日本でも、連合が、非正規雇用労働者の組織化に乗り出したことは、前回の豆電球でも 触れた。南米では、左翼政権が次々と誕生し、。最低賃金の引き上げ、非正規雇用労働者の権利の向上が図られている。グローバル化した資本は巨大化している が、他方で労働者たちのリベンジの始まりつつあると信じたい。
余り知られていないが、アメリカでも、民衆のために献身的に働く弁護士はたくさんいる。がんばれ、ケント、ウォン弁護士!!

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