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事務所だより

久しぶりの豆電球No.44 お勧めの一冊「狂奔する資本主義」

2008年2月12日

久しぶりの豆電球No.44 お勧めの一冊「狂奔する資本主義」

正月が過ぎ、立春も過ぎてしまったが、また、気の向くまま風の向くまま、豆電球を書いていきますので、お付き合いの程、よろしく御願いいたします(朝の連続テレビ小説「ちりとてちん」の見過ぎでしょうか。今週は、師匠の生き様が感動的です)。

この間、吉川英治の「新平家物語」やら、茶道の本にはまりこんでしまって、政治経済関係の書籍から遠ざかっていたが、久しぶりに読んだ本がヒットだっ た。ダイヤモンド社発行の「狂奔する資本主義 格差社会から新たな福祉社会へ」。著者は、オックスフォード大学経済学部教授で、マルクス経済学者のアンド ルー・グリン氏である。

グリンのこの著作は、1950年代から2000年代初頭にかけての「富裕諸国」(米、英、日、フランス、ドイツ、イタリア等の欧州の主要国) の経済史の概観を見せてくれる。
労働組合運動の前進、労働組合の経営参画システムの普及と賃金の上昇、社会保障の充実と福祉国家化によって、資本の利潤率が低下し、財政赤字が累積する 60年代から70年代初頭の富裕諸国。それを資本主義システムへの挑戦と受け止めた各国の経済界、政府は、その後、どのような政策を取り、その結果、何が 起きたのか。
米レーガン政権、英国のサッチャー政権が先導した民営化、規制緩和等による市場原理の拡大、賃金上昇とインフレ昂進に対抗したマクロ経済での緊縮政策、財政均衡政策が富裕諸国に拡がっていく。
グリンは、2000年の富裕諸国の現状を、「2000年までには、株価はそれまでの全ての損失を回復していた。ストライキは取るに足らない水準に低下、 インフレは抑圧され、実質賃金は全く取るに足らない上昇率で停滞するようになった。政府歳出は抑制されるに至った」と描き、各国の「資本主義の強さと安定 性が決定的に回復する」にいたる劇的なプロセスを辿る。その上で、グリンは、資本主義経済における金融部門の肥大化、企業経営における株主利潤の支配の成 長を描き出している。
グリンは、このように、80年代以降の富裕諸国の資本主義の「強さと安定性の回復」を指摘するだけでなく、その不安定性と矛盾にも着目する。この本は、 06年3月に書かれたものだが、その後の国際経済の不安定化、特に今年に入ってのサブプライムローン問題に端を発した世界的な経済の不安定化を予言するよ うでもある。
例えば、アメリカの近年の景気回復については、「持続的な消費ブーム、少なくとも小売業における規模の経済の推進(ウォルマート等を指すー引用者)」と 「徹底した合理化」によって生じたとしつつ、「全般的なマクロ経済の傾向は、景気浮揚的財政赤字に支持されねさらに国際収支赤字に融資する巨額の資金流入 に依存している」「家計が大きく金融に巻き込まれると、資産価格に対する国内需要の敏感さが増す」「消費ブームが突然後退するなら、アメリカ経済の脆弱制 覇極めて明白になるだろう」と指摘している。
グリンは、富裕諸国において、共通して経済格差が拡がっていることを指摘している。この点で、私が興味を引かれたのは、一つは、グローバリゼーションの もとで、この問題に関する移民問題の重要性に言及している点である。グリンは、外国生まれの住民が多い国が、より少ない所得配分を行う」「アメリカにおけ る人種的分断と貧困層における少数民族の異常な多さが、あきらかに再配分を制約している」という考え方を肯定的に紹介している。
もう一つは、アメリカ流の新自由主義の広がりを指摘しつつ、富裕諸国における所得再配分方式の差異が厳然として存在することを強調し、それを支える政治 の力を強調している点である。グリンは、「ますます不平等となる所得配分、最小限の福祉国家、及び長時間労働をともなうアメリカ式モデルに急速に収斂しつ つある」という見方を否定している。平等を志向する世論の存在を指摘し、「アジアの工業化も移民の増加も、福祉国家を守り拡大する政治活動が無効になった ことを意味しない」と述べ、新たな総意と工夫が必要であることと述べ、ベーシックインカムという独自の構想を述べている(この点は、私にはよく理解できな かった)。

私が大いに共感したのは、グリンが、労働生産性の伸びを労働時間の減少に生かすことの重要性を指摘しているところだ。
グリンは、これまでの、いわゆる「左派」は物質的生活水準の向上を優先事項としてきたが、その転換が必要であるとしている。
社会主義についても、グリンは述べる。「社会主義の長期的な目的は、人々の人生をより満足できる方向に発展させることを促進する点にある」。
これは、不破哲三氏が、最近、社会主義に関して語られてきた一つの固定観念、すなわち社会主義は、物質的な生産力を桎梏から解き放ち、能力に応じて働 き、労働に応じて受け取る社会を経て、「能力に応じて働き、必要に応じて受け取る」社会を目指すものであるという観念の呪縛からの離脱の重要性を指摘し、 労働時間の短縮を根本条件としながら、各人が自由にその個性を発揮できる真に自由な社会こそ、マルクスが求めたものであったことを解明したことと通じるも のがある。

グリンは、この本を、「経済のシステムがどのように発展しつつあるか、『大きな見取り図』をつかみたいと感じているような、経済学専攻の学生はもとよ り、さらに広範な社会諸科学の学生にも役立つものと信じている」と自負しているが、発達した資本主義国の60年代以降の「大きな見取り図」を得たいと考え ている人には、是非、一読を勧めたい。

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