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事務所だより

国民投票法案の国会審議をどう見るか 豆電球No.20

2007年4月26日

国民投票法案の国会審議をどう見るか

参議院では、憲法改正に関する国民投票法案を連休明けにも採決に持ち込もうと、連日、委員会審議を行っている。
地方公聴会が4月24日(火)名古屋で開催されたが、開催日程が決まったのは20日の金曜日であり、公述人をあわてて確保するというバタバタの公聴会と なった。同日の仙台の公聴会では公述人が「十分な意見陳述の準備ができず、採決のためのセレモニーに過ぎないのではないか」と批判したが、もっともであ る。愛知県弁護士会でも急遽、公聴会の傍聴券を二枚入手して何とか傍聴者を確保したのだが、国民の意見を真摯に聞こうという姿勢が感じられない。拙速も甚 だしい。
国家百年の大計とも言うべき憲法改正に関する手続きを定める法案の審議が、かくも強引に進められて良いのか。
与党が審議のピッチを上げ、今国会での成立を至上命令と位置づけたのは、言うまでもなく、安倍総理が次の参議院選挙で憲法改正問題を争点にすると宣言し たことによることは周知のところである。憲法改正手続も定まっていない段階では、憲法改正について争点化しにくい、というのであろう。安倍内閣の支持率は 低迷しており、安倍カラーを出そうと必死である。
しかし、このような選挙戦略、党利党略的な視点から、憲法改正手続の法律が制定されるべきではなかった。世論調査でも、国民の多くは慎重な審議を望んでいた。国権の最高機関としての権威は損なわれたと言われても仕方ない。
国民投票法の最大の問題点は、最低投票率がもうけられていないため、国民の少数意見で憲法改正が行われてしまう可能性がある、という点である。与党筋 は、立法事項に過ぎないというが、最高法規たる憲法は主権者の多数意思により定立されるべきであることは、余りに当然であり、私は違憲の疑いがあると考え ている。
それにしても法案の審議の経過を見て驚いたのは、自民党が相当程度、民主党案に歩み寄ったことである。18歳以上に投票権を付与した点もその一つであ る。ここに自民党という政党の懐の深さを見ることができる。自民党は、18歳以上の少年に公職選挙法の選挙権も付与する方向であると言われる。
結論から言えば、私は、18歳選挙権に賛成である。しかし、自民党の狙いも冷静に見ておく必要がある、と思う。
何よりも、何としても憲法9条を変えたい、そのためには手段を選ばない、という自民党の改憲に対する並々ならぬ腹構えを見なければならない。同時に、 18歳選挙権には様々な狙いがある。小泉内閣の支持率は若い世代に高かった、という。小林よしのり氏らの言説は、若い世代の中で一定の読者層を持ち続けて いるという。自民党は、農村政党であり、地元の有力者や業界団体に支えられてきたが、都市型政党に脱皮しようと様々な取り組みを行っている。更に言えば、 高齢化社会への対応である。かつて、レスター・サローであったと思うが、高齢化に伴う医療費負担、年金負担による財政破綻を回避する必要があるが、社会の 高齢化により有権者の中に高齢者の割合が高まるため、高齢者福祉切り下げを主張する公約が出しにくくなる、民主主義社会では財政傍聴は避けがたいであろう という指摘をしていた。与党筋からそのような発言は聞こえてはいないが、おそらく自民党は、高齢者福祉の切り捨て・削減のためにも18歳選挙権が有効であ ろうと考えているのではないかと思う。

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