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事務所だより

国民投票法案の国会審議をどう見るか4 豆電球No.24

2007年5月10日

国民投票法案の国会審議をどう見るか4

14日の参議院本会議で国民投票法案が可決、成立した。日本国憲法施行60周年の「還暦」の年に、平和憲法改定に向けた道筋が開かれたことになる。
成立した国民投票法案は、全くの欠陥法案であることは既に述べた。特に、最低投票率が設けられていないことは、国の最高法規が主権者の多数意思に拠らないで変えられる危険性を孕むものであり、重大である。
成立した国民投票法による初めての憲法改正国民投票は、3年間の猶予期間が経過した2011年にも行われる可能性がある。とりわけ、今夏の参議院選挙で自公与党が勝利した場合には、動きが強まるだろう。今秋にも憲法審査会が発足する。

自民党が国民投票法案の成立を急いだのは、恒久平和主義、戦力不保持を定めた日本国憲法第9条を早く改変したいからであることは、殆ど疑いを容れないところであろう。
憲法9条は、制定以来かつてない危機的状況に置かれようとしていることは事実である。
しかし、私は、悲惨な戦争体験、被爆体験を持つ日本国民の平和を希求する世論は健在であることを忘れるべきではないと思う。最近の「朝日」「読売」「共 同通信」の世論調査では、9条堅持が9条改定を大きく上回り、前回の世論調査に比べ「9条改正派」が減少していることが共通の傾向となっていると報じられ ている。これは、イラク戦争の破綻、靖国派とも言うべき右翼的思想傾向に担がれた安倍内閣の正体が露見してきたこと等が影響しているが、同時に、「9条の 会」を中心とする草の根からの運動の広がりが国民世論に影響を与えている。
国会では、自民党は新憲法制定をめざし、民主党も創憲の立場であり、「改憲派」が多数であるが、国民投票法が通っても、国会で改憲派が多数を占めたとしても、国民主権がある。決めるのは国民である。国民投票は「負けるとは限らない」。

与党が300議席以上を占める国会の状況を嘆く声は多い(私の周辺でも、様々な問題で自民党の横暴を嘆き、ファシズムになっているという人がいる。私 は、今、日本社会が一路、反動に向かって動いているという危機感を煽るだけの情勢認識に私は与しない)。今回の国民投票法の審議の過程を見ると、国民世論 が大きな影響を与えていることがわかる。
当初、自民党が検討していた国民投票法案は、成立のために次のような修正を受け入れざるを得なかった。
(1)当初の案では、一括投票→ 改正条項ごとに個別に投票
(2)国民投票に先立つテレビの意見広告について無制限→投票日前2週間は禁止
(テレビの意見広告はお金がかかる。財力にものを言わせて世論を動かす不公正は  問題である)
(3)投票は20歳以上の有権者→18歳選挙権の導入を検討
公務員の国民投票運動について、国家公務員法、人事院規則の適用の除外は明記されなかったが、3年以内に法制上の措置を講じるとされている。なお、公務 員・教育者の地位利用による国民投票運動の規制は萎縮効果があり問題だが(刑事罰は適用されない)、国会審議では、「憲法改正国民投票に賛成しなければ単 位を与えない」というような極端な例を除けば地位利用とはならないとの答弁(日本共産党の仁比聡平参議院議員の質問に対する提案者の葉梨議員の答弁)も引 き出した。
これらの修正の背景には、日本弁護士連合会の意見書の内容が反映され、そのロビー活動が影響したこと、マスコミや市民団体の運動が広がったこと等の事情があった。

憲法改正は、これからが正念場である。自民党が300議席に物を言わせ、国民世論を無視して改憲に走れば、手痛いしっぺかえしを覚悟しなければならないだろう。

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