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事務所だより

外国人が見た日本人 豆電球No.18

2006年11月6日

ルイス・フロイス「ヨーロッパ文化と日本文化」

岩波文庫「ヨーロッパ文化と日本文化」は、16世紀に来日し、宣教師として布教活動を行ったルイス・フロイス(1532-97)が、日本の社会を観察し、ヨーロッパ文化との比較を行った文献である。なかなかおもしろい本である。
フロイスは、風貌、衣食住(衣服、家屋の様子、食事の仕方)、寺院や宗教、音楽や舞踊等の文化などについて、「われわれは○○○である。日本では△△△ である」という形式で比較対照している。その視線には、いささか欧米人の黄色人種たる日本人に対する蔑視の要素を感じないわけではないが、異なる文化、風 俗に接した時の率直で新鮮な驚きが表現されている。(当たり前のことだが)日本人の生活様式、風俗、文化、気質というものが、長い歴史の中で作られてきた ものであることがわかる。
いくつかを紹介してみよう。
【生活習慣】
「われわれの間では、全く人目を避けて、家で入浴する。日本では男も女も坊主も公衆浴場で、また夜に門口で入浴する」(入浴)
「われわれは普通に小麦製のパンを食べる。日本人は塩を入れずに煮た米を食べる」
「われわれはスープがなくても結構食事をすることができる。日本人は汁がないと食事が出来ない」(食事)
「われわれはすべてのものを手をつかって食べる。日本人は男も女も、子供の時から日本の棒を用い手食べる」(文庫の解説者は「ヨーロッパの場合、食卓で フォークを用いる習慣は17世紀からであり、それ以前は手づかみだった。日本人の用いる箸は古代から大陸から伝わった風習であろう」としている)
「われわれの家は石と石灰で作られている。彼らのは、木、竹、藁及び泥でできている」
「われわれは座り、彼らはしゃがむ」(トイレ)
解説によれば、ヨーロッパでは古代から座って用便をする風習があり、古代ローマでは貴族はラサナと呼ばれる椅子を用いていたという。これに対し、回教徒をはじめとするアジアではしゃがむ風習であるという。
【女性】
「ヨーロッパでは未婚の女性の最高の栄誉と貴さは、貞操であり、またその純潔が犯されない貞潔さである。日本の女性は処女の純潔を少しも重んじない。ま た、それを欠いても、名誉も失われなければ、結婚もできる」(「逝きし世の面影」でも、この点が紹介されている。吉原で奉公を勤め上げた女性たちが、堂々 と良家に嫁ぎ、家庭生活を送っていく様子を描いている)
「ヨーロッパでは、妻は夫の許可なく家から外に出ることはできない。日本の女性は、夫に知らせず好きな所に行く自由をもっている」
【宗教】
「われわれは来世の栄光と劫罰、霊魂の不滅を信じている。禅宗の坊主らはこれをすべて否定し、生まれることと死ぬこと以外は何もないとしている」(禅の無常観を言うのであろうか。日本仏教の教義の現世的な性格を反映しているのかもしれない)
「われわれの間では教えに背いた者は背教者、変節者とされる。日本では望みのままに幾度でも変節し、少しも不名誉としない」
【戦争】
「われわれの間では人が自殺することは最も重い罪とされている。日本人は戦争の際に力が尽きた時は、腹を切ることが勇敢なこととされている」。
【言葉】
「ヨーロッパでは言葉の明瞭であることを求め、曖昧な言葉を避ける。日本では曖昧な言葉が一番優れた言葉で、もっとも重んぜられている」

自分自身の姿は自分では良くわからないものだ。他人から見たとき、そのオリジナリティーが一層浮き彫りになることがある。過去に日本を訪れた外国人の訪 問記は、日本人自身では気がつかないか意識しない、日本の文化、日本人というもののオリジナリティーというものを考える上で格好の材料である。前近代の社 会は、身分制度に縛られ、抑圧と貧困が支配した暗い社会、というイメージで捉えがちだが、果たしてそうなのか。ベストセラーになった渡辺京二の「逝きし日 本の面影」に触発され、外国人が見た日本人の姿について読み続けていきたいと思っている。

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