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事務所だより

大ローマ展を寺澤事務局員と観る 豆電球No.108

2010年3月10日

大ローマ展を寺澤事務局員と観る

愛知県美術館で行われている大ローマ展に事務職員の寺澤さんと出かけた。寺澤さんは、大変な歴史通であり、白川弁護士と世界史、日本史の知識をいつも張り合っている(だじゃれも多い)。
大ローマ展という名前はついているが、そのメインは、ローマ帝政初期の時代、長い内戦による混乱と階級対立の中で訪れたアウグスティヌス(オクタヴィアヌス)による安定した平和なローマ帝国の時代の彫刻や絵画等の美術品、貨幣や水道施設の機具等が展示物の中心の一つであり、もう一つは、ポンペイの遺跡から発掘された絵画や美術品である。
ポンペイの遺跡から発掘された文物は、やはり凄い。火山灰で埋もれたために盗掘被害も免れ、また石像建築であり、彫像も大理石で建築されたものが多かったため、当時の状態で保存されているし、損壊していても当時の状態に復元ができる。女性の彫像が発掘され、黒い火山灰の中から女性の彫像の美しい顔面が出てきた時の写真が極めて印象的であった。コンピューターによって当時の街並みや生活を復元するビデオも上映されており、おもしろい。
ローマ展に展示された芸術品は、私にはその価値は良く分からない。猫の小判というやつである。イタリアに行ったときにも膨大な大理石の彫像を見たのだが、どれも八頭身の男性で顔も同じようなものばかり。絵画はフレスコ画が多かったが、題材はディオニッソス等の神々等の描き方も単調な気がする。
やはり、ローマ人は、芸術よりも、建築、土木技術等、実用的な分野に長けている文明ではないかと思う。

おもしろかったのは、アウグストゥス、ティトス、ティベリウス、ネロ等の皇帝が発行した貨幣の展示である。解説によれば、戦争で出兵した兵士たちに対する報酬を支払うために皇帝が貨幣を発行したということも影響したと説明されていた。
貨幣がどのように発生したのかということには興味がある。マルクスの資本論には、商品の交換過程(価値形態)がやがて一般的等価形態に発展し、貨幣を生み出す過程が描き出されているが、それは、一般的な商品交換に中で貨幣が生まれていく必然性を論理的に説明したものであり、歴史の叙述ではない。実際の貨幣の歴史は、固有のなりたちを持っていることは当然である。一般に、戦争が経済システムを大きく変革する契機となる。戦争は道徳的な悪であるが、変革の産婆役を努めることもある。最近、ある事件で、戦前の年金制度のなりたちを調べる機会があったが、年金制度はまずは軍人恩給から始まり、戦費調達の必要性に駆られて労働者年金制度が立ち上げられていく。戦時のわが国の経済体制が戦後の高度成長を保障した日本型経済システムの原型になったことも周知のところだ。なお、寺澤さんによれば、秀吉も戦争に従事した兵士たちのために貨幣を発行していたというが、本当がどうか白川弁護士に聞いていないのでわからない。

なんだかローマ展の話としては寂しい感想でしたが、男二人連れで展覧会に行くのも楽しいものでした。

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