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事務所だより

年金改革を言うなら、障害者に対する配慮を!! 豆電球No.3

2005年12月21日

年金改革を言うなら、障害者に対する配慮を!!

私が担当している障害基礎年金支給停止処分取消訴訟で、12月15日、名古屋高裁において判決の言い渡しがあった。原告の控訴を棄却する敗訴判決であった。
今後、原告と相談し、上告するかどうか判断することになるが、どうにも腹がおさまらないので、豆電球に書かせていただくことにした。

簡単に事件の概要を説明する。自閉症と知的障害があり、町工場で月数万円の収入しかない原告は、妹の扶養を受けながら、障害基礎年金(月額7万円強)を受給し生活していた。妹さんが交通事故で死亡したため(私は同交通事故の損害賠償請求訴訟を担当して原告と知り合った)、原告は労災から遺族補償年金(月額約8万円)を受給することとなったところ、障害基礎年金は全額支給停止されてしまった。国民年金法30条の4は、20歳前に障害を発症した障害者が障害基礎年金を受給している場合には、同障害者が他の年金給付を受けることになった場合には、障害基礎年金は支給しないと定めているからである。

ところが、20歳後に障害を発症した障害者の場合には、他の年金給付を受けることとなっても障害基礎年金は支給停止されることはない。これは、いかにもおかしくないか、憲法14条の法の平等に反するのではないか、障害者の生存権を侵害するのではないかとして、同法は憲法違反であると主張し、平成15年に同支給停止処分の取消を求める行政訴訟を提起したのである。

社会保険庁側の言い分は、保険の考え方に基づくなら、20歳になって国民年金法の被保険者資格を取得した後に保険事故の発生、すなわち障害の発症があった場合に限り障害基礎年金を支給するのは当然であるが、20歳前の障害の発生の場合は支給できないところを、国が特別に支給してやっているのだから、他に年金を受けることができるようになったら、国の財政節約の見地から併給調整して支給をうち切るのは当然である、というものである。

原判決は、社会保険庁の主張を認め、二審も同原判決を正当と認めて、控訴を棄却したのである。

しかし、私には社会保険庁の主張は、憲法無視の全くの形式論理であると思う。国民年金は、たんなる保険ではなく、国民の生存権を保障した憲法25条に基 づき、所得の獲得能力を失った国民に年金を支給する制度である。だから、法律の名前も、厚生年金保険法と違って、国民年金保険法ではなく、国民年金法なの である。

20歳に発症しようと20歳前に発症しようと、障害者が十分な収入を得られず、生活に困窮する事情には何ら変わりはない筈であり、20歳の前か後かで区別するのはどうしても納得できない。

社会保険庁は、国の財政的制約から、年金の併給は認められないというが、労災保険の財政は使用者が支払う労災保険料で賄われており、国庫負担は1パーセントにも満たない。労災保険給付との併給を認めても、国の拠出による年金の重複という事態は生じないのである。

そもそも、障害基礎年金は、障害による所得獲得能力の喪失・不足を補填し、遺族年金は扶養の喪失を補填するものであり、両者の機能は全く異なっているのであり、これを全面的に併給調整することは、どう考えてもおかしい。

昨今、年金制度改革ということが叫ばれているが、障害基礎年金のこうした問題点にも是非メスを入れて欲しいものである。

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