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事務所だより

日弁連会長選挙 −−異例の再選挙に思う

2012年3月16日

日弁連会長選挙が、異例の再選挙になり注目を集めている。14日に再投票が行われたが、いずれの候補も規約が定める当選条件を充たさず、初めての再選挙が行われることになった。再投票は、最初の投票での上位二者の決選投票形式で行われ、初回と同様、山岸弁護士が宇都宮弁護士を得票数では上回ったが、全国単位会の3分の1以上で一位にならなければならないとう会則の条件を充たさなかったためである。

日弁連で、何が議論されているのか。
山岸、宇都宮候補の政策を比較しても、どこが違うのか今一つ対立点が明確ではない。東京、大阪の大都市の弁護士会でたらいまわしされている慣例に対する反発もあるだろうし、宇都宮現会長が異例の続投を表明し4年間にわたって同じ弁護士が会長が続けることへの違和感もあるのかもしれない。
しかし、底流にあるのは、大方のメディアが指摘するように、弁護士人口増への対処に関するスタンスの違いがあると思う。司法試験合格者の急増により就職難となり、仕事が減ったことを懸念する若手弁護士の意見も作用しているようだ。

私は、いろいろ迷ったが、宇都宮候補を支持した。宇都宮会長の2年間を見ると、東日本大震災、福島原発問題への対処をはじめ、サラ金多重債務問題に長年取り組んだ庶民派弁護士の経験を生かし様々な問題で的確に対応した。ただ、ためらいがあったのは、宇都宮会長を支持する陣営の中に、日弁連が取り組んできた市民のための司法制度改革の理念を根本から疑問視する潮流が合流している点に一抹の不安があったためである。

市民に信頼される司法を強化するためには、弁護士の容量の拡大をはじめとする法曹養成制度の改革が不可欠な課題の一つであるが、たんに人数を増やせば良いというものではなく、法律業務を的確に処理できる知識と実務スキル、法曹としての倫理と人権感覚を備えた弁護士を要請していく必要がある。そのためには、弁護士を現場で育てるオン・ザ・ジョブ・トレーニングが不可欠であるが、実情を無視した急ピッチの増員のため、新人弁護士の就職難が生じ、「ソクドク弁護士(=登録と同時に現場研修が不十分なまま独立開業せざるを得ない弁護士)」の増加等の弊害が表面化しており、これを是正することが求められている。私は、「弁護士が増えれば、食えなくなり人権擁護活動ができなくなる」と主張し、法曹人口の増大に抵抗する一部弁護士グループの立場は誤りであると考えているし、司法制度改革に対する日弁連のこれまでの対応を基本的に評価してきたが、現在の急激な増員には弊害があり是正が求められていると思う。これについては、以前の豆電球でも触れたところである。

宇都宮氏は、弁護士人口の増員のピッチを緩め、司法試験合格者を現在の2000人から1500人に変更することを提起しているが、段階的に1500人をめざして減らしていくという方向性は間違っていない。ただ、懸念されるのは、宇都宮氏を支持する陣営に、1500人への段階的な減少を超えて1000人まで減らせというグループが一定の影響力を持っていることである。私は、弁護士は依然として市民にとって身近な存在となっていないと思う。過疎地域対策等は一定前進したが、依然として多くの市民は、どこに弁護士事務所があるかすら知らない。弁護士の業務改革が十分進んでいないことも一因であろう。事務所にいれば依頼事件が歩いてやってくるという時代に慣れ親しんできた弁護士が、市民の中に積極的に足を踏み入れていくことは苦手な仕事かもしれないが、ここにチャレンジしないで弁護士人口増反対だけを声高に主張するだけでは、市民の支持は得られない。

貧困と格差が広がる中で、弁護士によるサービスを求めるニーズは確実に存在している。市民の人権擁護のために着実に司法の容量を拡大する立場を堅持しつつ、必要な見直しを進めていくべきである。弁護士の助力を得られず苦しんだサラ金被害者たちを知る宇都宮弁護士がその原点を忘れる筈はないと私は信じる。

2012/3/16
弁護士 長谷川一裕

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