文字サイズ 標準拡大

事務所だより

目が点になったスウェーデンの生活モデル1 豆電球No.101

2009年12月8日

目が点になったスウェーデンの生活モデル1

目が点になったスウェーデンの生活モデル?

12月上旬、中京大学教授の猿田正機さんの講演「日本における福祉国家の展望と課題ースウェーデンを素材として」を聞く機会があった。
猿田さんは、愛知労働問題研究所の前所長としてトヨタの労働関係の研究を続けてきたことで知られているが、以前からスウェーデンの労使関係、社会保障等に関心を持ち、同分野での論文、著作も出している方だ。

スウェーデンについては、社会保障が充実しているとか、高い付加価値税の税負担に国民が耐えているといった漠然として印象しかなく、具体的にどんな国なのか予備知識はなかったので、非常に勉強になった。同時に、同じ資本主義国でありながら、ここまで違う経済モデルを作り上げた国があるのかというサプライズに満ちたものであった。
猿田教授によれば、スウェーデン・モデルと呼ばれる同国の経済システムの骨格は、次の四つである。
1 完全雇用を柱としても経済成長を志向する経済政策
「レーン・メイドナー・モデル」と呼ばれる労働政策等
2 社会のあらゆる面での平等の重視
3 社会民主党とスゥェーデンの最大の労働組合と呼ばれるLOとの緊密な連携
4 公的セクターの重視による高福祉
5 外交における中立政策
わか国でもよく知られているのは、同国の福祉水準の高さであろう。医療、教育等はすべて無料であり、生まれてから死ぬまでに人間が必要となる様々なサービスが公的給付として無料で提供される。児童手当の支給、義務教育から大学まで教育費は全て無料である。
学費が無料というだけでなく、給付制の奨学金制度があり、大学生は本業に専念できる。大学生の子を持つと親は学費や仕送りに負われ、学生自身もアルバイトが本業で何のために大学に入学したのかわからないと猿田さんが嘆くような日本とは全く違う。
子を持つ母親が働く環境が整備されており、女性も安心して子育てしながら働くことが出来る(日本の女性の労働力率は、いわゆるM字型であり、出産育児年齢の就労率がガクンと下がり、子育てが終わった年齢から再び働き始める。資源がない日本では、唯一の経済資源は労働力である。ようやく仕事を覚えた頃に育児で就業を断念せざるを得ないということは、何とも惜しいことではないか)。子供が生まれれば、1年半の「両親休暇」が保障され、その間、80%の賃金が保障される。
また、男女の賃金格差も極めて小さい。男女の賃金格差は、1割に過ぎないという。
だから共働きが当たり前という訳である。
日本の社会保障と違う際だった特徴は、「人生前半の社会保障」が桁違いだと言うことである(日本の水準が欧州水準に比べて桁違いに低いと言うべきか)。社会保障給付費から、高齢者関係、医療関係、遺族関係を除き、人生前半と関連すると考えられる「障害」「家族」「積極的雇用政策」「失業」「住宅」を抜き出した給付費がGDPに締める比率は、スウェーデンが12%、フランス8.5%、ドイツ7.8%、イギリス8%に対して、日本は僅かに2.3%。児童手当、住宅手当等が充実しているから、若い子育て世代も安心て生活できるという。
「労働」も、日本とは大きく異なる。労働時間は約1500時間(日本では約1800時間になりつつあるが、中小企業やサービス業の労働時間ははるかに長く、このほかに世界的に有名な「サービス残業」まで入れると更に労働時間は長くなる)、同一労働同一賃金の徹底(男女間の賃金格差が小さいことは前述。2004年現在で比較するとスウェーデンの男女間賃金格差は約10%、日本は43%。あーあ)、5週間以上のバカンス!
日本では正規と非正規の賃金格差も大きく、パートタイマーの賃金は、未だに時給800円とか900円というレベルであるが、スゥェーデンではこのような格差はない。というより、パートタイマーというのは、子育てを重視し、短時間勤務にしたい労働者が権利として選択するものとして位置づけられており、子育てが終われば、同じ職場でフルタイムで働くことが出来る。低賃金・雇用調整弁としてパートを位置づけている日本に対して、「権利としてのパートタイム労働」!何という違いだろうか。

このページの先頭へ