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事務所だより

目が点になったスウェーデンの生活モデル2 豆電球No.102

2009年12月11日

目が点になったスウェーデンの生活モデル2

社会保障の充実と並ぶスウェーデンの生活経済モデルの特徴は、国民の負担率の高さである。良く大きい政府か小さい政府かということが議論されるが、スウェーデンは「大きな政府」に分類される。
租税・社会保障負担の対国民所得の比率を見ると、日本は36.7%であるのに対し、スウェーデンは70.2%である。
その内訳にも注意を要する。社会保障の充実を求める国民の要求に対して、政府がいつも持ち出すのは、大企業の税負担率が上がると国際競争力がそがれるのではないか、消費税が上がってもいいのですか、ということである。日本の大企業が社会保障のために負担している割合は、欧米諸国に比べてごく小さい。スウェーデンでは、租税以外に様々な雇用主負担があり(国民年金、健康保険や労働市場対策費等の名目で徴収されるようだ)、その負担割合は32.3%に及んでいる。
確かに、スウェーデンのような生活モデルを全面的に採用すれば消費税率の引き上げも論議の対象となるかもしれないが、その前に、日本の大企業の法定福利費の適正水準への引き上げ(健康保険、厚生年金の企業の負担割合は直ちに引き上げるべきと思う)、地価の高騰等を受けて大幅に下げすぎた相続税を元に戻す、あるいは有価証券取引税の軽減税率の撤廃等の税収対策が先決である。

スウェーデンのような高福祉社会になると、企業の競争力が弱まり、労働者が怠けるのではないか、経済力が低下するのではないか、という懸念が表明されることがある。この点も講演のテーマの一つであった、猿田さんによれば、スウェーデンには、ノキア、ボルボといった高い国際競争力を持つ企業が少なくなく、国民一人当たりの所得も高い。スウェーデンの運河にはヨットが並び、お金持ちだけでなく一般の労働者もバカンスにはヨットで大西洋に乗り出すという。
なぜ、充実した社会福祉と経済成長の両者が両立できたのか。
猿田さんは、スウェーデンが、フレキシブルな産業政策、雇用政策を採用し、個別の企業の競争力を高めるというだけでなく、生産性の高い産業分野に重点的に資源を配分し、雇用政策も競争力が期待できる分野に労働力を確保できる方策をとっていることを指摘していた。また、スウェーデンの人口が1000万人という規模であること、スウェーデンが第二次世界大戦の時に中立政策を採用して戦争に参加しなかったため、欧州経済が破壊避けたときも国土と産業が保全され成長を続けたという歴史的要因を上げ、平和の重要性を強調された。また、猿田さんは、教育に負うところが大きいとも述べられた。
人間一人一人を大切にする社会労働政策、そして一人一人の人間の能力と個性を伸ばすことを最大限追求する教育、これが社会の成長力を高める要因ではないだろうか。

このようなスウェーデンの経済モデル、生活モデルを作り上げている政治システムにも、特徴がある。一つは、男女平等、共同参画型社会ということだ。企業、生産現場における女性の役割は前述したが、スウェーデンの場合、国会議員に締める時余生の割合は40.4%、県会議員は47.6%という。子育てと両立する雇用政策、個人の負担と責任ではなく社会が子育て、医療、介護に責任を持つという社会保障サービスの社会化といった政策は、女性が政治システムの中で発言力を行使していることのあらわれかもしれない。
二つめは、民主主義的な意思決定システムである。一般に、国民負担率が高い社会は、国民の政治参加が進んでいると言われるが、スウェーデンでは、例えば禁酒法制定、道路の右側通行等、社会に大きな影響を与える問題について、そのたびに国民投票が行われている。また、選挙制度は、もちろん完全比例代表制である。少数意見も含めて議会に正確に民意が反映する選挙制度である。

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