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事務所だより

『ぷらっとほーむ』権利擁護の人づくり講座 に参加して5(その2)

2013年4月17日

「権利擁護の人づくり講座 第5回 生活相談の専門知識」に参加して(その2)

弁護士 鈴木哲郎

 その1は午前の部「活用できる制度、病院との契約について」でした。その2は午後の部です。

2 午後の部「施設について」

講師:NPO法人東濃成年後見センター理事長渡辺哲雄氏
(1)社会福祉法人とは
社会福祉を目的として、入所施設サービスや在宅サービスといった事業(社会福祉事業)を行うのが、社会福祉法人です。憲法は、「公の支配に属しない慈善事業等に公金を支出してはならない」と定めていますが(89条)、社会福祉法人は、強い公的規制を受けることで、この規定に抵触せず助成を受けられる特別な法人として創設されました。
社会福祉法人は、その目的から、安定して適正な運営ができるように、役員や資産等に一定の要件を課しています。その一つとして、「原則として、社会福祉事業を行うために直接必要なすべての物件につき所有権を有していることが必要」であるため、郊外の土地所有者に施設建設の話が突然舞い込むという「介護ビジネス」が一時期横行したといいます。
(2)「今世紀中の自分の姿」
特別養護老人ホームを例にとって職員の体制などの説明がされた後、具体的な施設入所までの流れの話に入ります。
脳出血で倒れ、救急車で運ばれた場合、まず向かうのは脳の手術が可能な大病院。しかし、入院が長引くと報酬が下がる保険点数の仕組みから、早期に回復期リハビリ病院へと移されます。その病院も、入院期間は3か月程度。それから、状態に応じて、常時介護を受ける生活施設(介護老人福祉施設)か、医学的管理に基づく長期療養施設(介護療養型医療施設)、家に帰るための生活リハビリ施設(介護老人保健施設)を選択することになります。家に帰ることができても、在宅福祉サービス(ショートステイやデイサービス)が必要な場合もあります。
講師の渡辺氏は、私たちが「他人事」で考えることに警鐘を鳴らし、「今日話す高齢者の現実は、ここにいる全員に今世紀中に訪れる未来だ」と力説します。
(3)介護難民とそれに乗じたビジネス
病院は、患者が入院中に誤嚥などにより死亡すると、管理責任を問われます。そこで、経口摂取を避け、胃ろうなどの経管栄養が用いられることになります。
さて、そこで退院となった場合、胃ろうの状態で家に帰ることはできません。老人保健施設は、家庭復帰の可能性がなければ入れません。介護療養型医療施設は、医療区分条件を満たす必要があるのですが、経管栄養はこれに該当しません。そして、介護老人福祉施設では、看護師不足のため経管栄養の方は受け入れてくれません。結局、行き場所がなくなってしまうのです。
そこに現れたのが、「寝たきり老人専用アパート」。あくまで「アパート」であって有料老人ホームではないので、行政への届出義務がありません。入居の際には、管理者が緊急時の対応を行わないことに同意する必要があります。福祉用具は指定の業者からレンタルしますが、その費用は相場より高額です。
このような施設は「必要悪」なのか?「回復の見込みがある人に、食事をとらせようという努力すらしない。本来の福祉のあり方から逸脱している」と講師は指摘します。
(4)最後に
「尊厳=意思=選択肢」。選択肢があるということは、意思を表明できるということ。それは、人の尊厳を重んじるということ。社会福祉の動きが人の尊厳を重んじているといえるかどうかは、利用者の選択肢を増やす方向に進んでいるかどうかで見極めなければならないと、最後に印象的な示唆がなされました。

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