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事務所だより

『ぷらっとほーむ』権利擁護の人づくり講座 に参加して8(その2)

2013年5月30日

『ぷらっとほーむ』権利擁護の人づくり講座 に参加して(その2)

第8回講座 消費者被害について

弁護士 矢崎暁子

【午後の部】「消費者被害への対応」

午後の部は、名古屋市消費生活センター、全国消費生活相談員協会で勤務されている消費生活専門相談員の小城奈穂美さんが講師としてお話しされました。消費生活センターには毎日数十件の相談が寄せられているそうで、そうした相談経験の中から、簡単な対処の仕方、消費者保護制度の概要などをわ かりやすく説明してくださいました。

参加者の中で担当を決め、「送りつけ詐欺」の電話での手口を実演するロールプレイも行われ、迫真の演技に会場からは拍手が起こりました。

1 消費生活センターとは

消費生活センターは、消費者としての生活に関わるあらゆる相談、悪質商法に関する相談を受けつけている施設で、2009年にできた消費者安全法に基づき設置されたものだそうです。消費生活相談や、商品テスト、消費者に対する啓発活動などを行っていて、寄せられた相談は、国民生活センターに 集められ、全国でどのような消費者被害が起きているのかという情報が蓄積されているとのことです。

現代は、物やサービスの販売方法・支払方法などが多様化、複雑化しており、またインターネットを通じて、顔も見たこともない遠くの人と簡単に売買契約を結ぶことができます。さらに、クレジットカードや電子マネーなど、見えないお金が使われることが多くなってきたこともあり、消費生活をおく る上での消費者教育の必要性がますます高まっているとのことです。

取引が複雑化していく中で、悪質業者は「だまそう、だまそう」と準備をし、様々な手口を使ってやってきます。消費者は、家でぼーっとしているところへ突然そのような業者がやってくるため戸惑ってしまい、すぐに言い返せないのが通常だそうです。手口を知って、落ち着いて対応できるようになる こと、周りの人に広めることが大切です、と指摘されました。

今、消費生活センターに寄せられている相談は、インターネットやメールなどのデジタルコンテンツの問題が一番多いそうです。無料だと思ってアダルトサイトや出会い系サイトを開いたら料金を請求された、などの架空請求で、スマートフォンの普及により「子どもが触ってしまった」などの相談が寄 せられているそうです。

また、午前の部でも指摘されていましたが、消費生活センターへの相談でも、家屋の修繕工事に関する被害が増えているそうです。そして健康食品の相談も、昨年は一昨年と比べて倍増と、激増しているとのことでした。

2 高齢者を狙う悪質商法

高齢者は、「3K」の不安を抱えているそうです。それは、金、健康、孤独、です。年金だけで生活できない不安、体が年々衰えていく不安、話し相手や相談相手がいない不安。悪質業者は、そうした不安につけこむのだそうです。孫のような年のセールスマンが、優しく声をかけてくれ、話を聞いてく れた、ということで相手を信じ込んでしまい、被害にあったという自覚をなかなか持てない方も少なくないそうで、なんとも切ないです。

高齢者に多いトラブルは、訪問販売や電話勧誘販売など、家にいるところを狙われるものが多いようです。中でも、電話をかけ、「スーダン・ポンド」や「イラク・ディナール」など、実際には日本で交換できない外国通貨を「すぐに値上がりする」と買わせたり、「メタンハイドレード」や「シェールガス」など、新聞で話題になったばかりの新しい資源を取り上げて投資させたりする利殖商法は、「老後が 心配」という不安につけこんだ、ひどい手口だと思いました。

最近問題になっているのが、「送りつけ商法」だそうです。注文していない商品を、代金引換で勝手に送りつけるというものです。「以前ご注文いただいた商品を送ります」と、突然電話がかかってくると、「以前・・・3か月前と言われると自分が忘れているのかもしれない」と不安になったり、「夫が頼んだのかしら」と思ったりして受け取ってしまうのだそうです。

「送りつけ商法」の対処法を教わりました。

業者は、電話での対応で相手を見定めているので、身に覚えのない商品を送ると言われたら、きっぱりと「頼んでません!」と電話を切ります。そして、もし送られてきてしまったときは、受取を拒否します。家族が頼んだのかもしれないと思ったら、宅配業者は心得ているので、「ちょっと家族に確認してみます」と受取を保留にすることもできます。

電話で勧誘を受け、つい「わかりました、送って下さい」と言ってしまっても、クーリングオフできます。

また、受取拒否の際、送られてきた宅配便の「送り主」を控えて消費生活センターに情報を提供すれば、悪質な業者への行政指導にもつながりうるとのことでした。

3 クーリングオフ制度

訪問販売や電話勧誘はんっばいなど特定の取引で結んだ契約は、一定期間内であれば無条件に解約できる、という制度です。

クーリングオフ制度についても、とてもわかりやすい説明をしていただいたので、ご紹介します。

訪問販売だけでなく、2013年2月からは「訪問買取」も対象になりました。「金の買取をいたします」「古着を買い取ります」などと言って自宅にやってきた業者に、指輪やネックレスなどを二束三文で奪うように買われてしまった、という被害が相次いだとのことです。クーリングオフできる期間は、基本的には、8日間です。今日契約したら・・と指折り数えていたところ、これは「同じ曜日」と覚えるとよい、と聞いて、なるほどと思いました。

クーリングオフは、突然の訪問や突然の電話など、「不意打ち」の契約類型を主に対象にしているので、買う気満々でデパートに出かけて買った物や、自分でカタログやインターネットで選んで買う通信販売は、対象外です。

なお、通信販売については、返品できるかどうか、返品の方法などについて記載しなければならない法規制があるので、買う前に、返品できるかどうかを確かめましょう。そして、そもそも返品について何も書いていないような業者からは買わないようにしましょう。これも、なるほどです。

クーリングオフはハガキを送ればできますが、ハガキの両面コピーを取って、特定記録郵便か簡易書留で送ること、と強調されました。こうすれば、ちゃんとハガキを出したことが証拠として残るからです。

4 クレジットは借金

クレジットで購入した商品は、つい「完全に自分の物」と思いがちですが、支払が完了しないと、完全には自分の物にならないことに注意が必要です。「デート商法」で高い指輪を買わされた男性が、だまされたと知って怒りにまかせて指輪を売ってしまったために、その後クレジット会社との交渉がう まくいかなかったこともあったそうです。

また、知的障害者がクレジットカードを作らされ、名義だけ貸して使われてしまうというトラブルも少なくないそうです。名義貸しという点では、ブラックリストに載ってしまい自分で携帯電話の契約をできない人が、知的障害者などに携帯電話の契約をさせる、というトラブルもあるそうです。

5 消費者力をつけよう

最後に、悪質商法の被害にあわないために、私たち自身も、賢い消費者になるように努力しよう、よい業者・よい商品を選ぶ目を身につけて、悪質業者を排斥していきましょう、とお話しされました。世の中にうまい話はありません。そんなにいい話なら見ず知らずの他人に教える

はずがありません。何度もしつこく勧誘してくる業者は、よい業者ではない。必要のないものは、はっきりと断ること。家に上げて話を聞いてしまうと断りづらくなるので、家に上げず、話を長く聞かずに、初めに断るのが一番簡単とのことです。

また、長く話せば話すほど個人情報を相手に教えてしまう、ということに注意が必要とのこと。「今、息子がいないので」「息子さんがいらっしゃるんですね、息子さんはいつ戻られるんですか」「7時頃にならないと」「7時までは戻らないんですね、何のお仕事ですか」・・・など。

「はぁ?何ですか?」と何度も聞き返したら相手が面倒になり諦めた、という例もあったそうです。これはおもしろい対抗手段ですね。

会社の経営者も、学生も、弁護士も、誰でも一人の「消費者」という側面を持っています。

突然の電話や訪問で不安になることを言われれば、もちろんどうしていいかわからなくなるでしょうし、店舗でも執拗な売りつけを断るのに骨を折るときもあります。「誰でもだまされる」「自分もひっかかる」のが消費者被害なんだと自覚して、恥ずかしがって一人で抱え込まないことが大切だと思い ました。

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